船士詩 ~37~ 年流る
保津川の 出逢いに感謝 年流る
ほづがわの であいにかんしゃ としながる
2012年もあと少しで過ぎようとしています。
みなさまは、どうお過ごしですか?
自然の恵み・保津川に感謝し、また出逢いしみなさまに感謝しながら、私なりにこの2012年を俳句とともに振り返ってみたいと思います。
そして、来たる2013年が、私たち、みなさまにとって素晴らしい年であることを願っています。
春の水 煌めく未来 川開き
はるのみず きらめくみらい かわびらき (3月)
例年3月10日は、川開きの神事を行い、一年の安全運行と無病息災を祈願します。
保津川に 散る花惜しむ 桜人
ほづがわに ちるはなおしむ さくらびと (4月)
今年の桜は、例年以上に見事に花を咲かせました。不動明王より眺める桜の景色が、私は一番好きです。
青もみじ うぐいす奏でる コンチェルト
あおもみじ うぐいすかなでる こんちぇると (5月)
新緑の保津峡は、うぐいす色の若葉の息吹で満たされ、時折、鶯の鳴き声がこだまします。よくお客様に「いつの季節がいいですか?」と聞かれますが、個人的には、うぐいす一色に染まる保津峡が一番ですね。
岩つつじ 清きなごみの はるみずお
いわつつじ きよきなごみの はるみずお (6月)
梅雨はいややというなかれ。梅雨の雨露が、岩場のつつじを潤し、5月末から6月にかけて、保津峡は、岩つつじの愛らしい花で彩られます。
ここ水尾の鵜飼ヶ浜は、清和天皇の安息の地。みなさまを、安らぎと清き想いへと誘います。
保津川に 船士魂 しめすとき
ほづがわに せんしたましい しめすとき (7月)
7月15日未明より降り出した、局地的豪雨は亀岡に多くの被害をもたらしました。ここ保津峡も例外ではなく、土砂崩れにより、航路に巨石が堆積し、運行中止を余儀なくされました。
しかし、400年間、保津川とともに生きてきた私たち。先人より受け継いできた技術は、操船技術だけではなく、航路作りの技術もあるのです。
航路を開削してきた先人たちの想いを胸に私たちも、保津川とともに生きていくのです。
夏嵐 緑にもゆる 赤とんぼ
なつあらし みどりにもゆる あかとんぼ (8月)
夏の盛りの嵐山。深緑の山々と青き水。人間には夏でも、自然にはもう秋の準備が始まっている。赤とんぼがすっと川面を飛んでいきます。
水鏡 きみのおもかげ うつりゆく
みずかがみ きみのおもかげ うつりゆく (9月)
台風前の保津川は、静々と流れていきます。滔々と流れる川面に、新緑の山々が映り込んでいきます。
保津川に 古老と未来の 火を灯す
ほづがわに ころうとみらいの ひをともす (10月)
毎年10月20日、かつて川港と船頭衆の村として栄えた保津町において「保津の火祭り」が行われます。勇壮な火祭りの前に、保津川べりで、古老の先輩と出逢い、保津川の今と昔、そして未来を語りあいました。
錦繍や 光陰織りなす 旅人かな
きんしゅうや こういんおりなす たびとかな (11月)
今年の紅葉は、例年以上の美しさを見せてくれました。秋に大きな台風が来なかったことが、一つの要因でもあるようです。保津峡の岩盤の山が多く、川べりの紅葉は、根を大きく張れず、葉も細かくなります。その小さき紅葉は増水により、水の浸かると、散りぢりとなることもありますが、幸い今年は、川面近くの紅葉も生き生きと赤く彩ってくれました。自然のちょっとしたはからいに感謝です。
時空の旅 丹波に浮かぶ 蒼嵐
ときのたび たんばにうかぶ あおあらし (12月)
京都・嵐山花灯路2012も大盛況でしたね。渡月橋から眺める大堰川(保津川)と嵐山は、悠久の時を流れてきた情景のようでした。丹波より出でし流れは、嵯峨嵐山へと注ぐ。時と場所を越え、丹波と嵐山が出逢ったかのようでした。
2012年は、再三、局地的豪雨に見舞われ、私たち船頭にとっては、試練の時でした。
しかし、私たち船頭は、400年間、保津川とともに生きてきたのです。ひとときの憂いに惑わされることなく、様々な保津川の恵みに感謝しながら、近くて遠い未来を想い、先人たちの想いを、私たちの想いと重ね、生きていかなければなりません。
さあ、2013年へと時を重ねながら、また想いも重ね、新年を迎えます。
それでは、みなさま、素晴らしい年をお迎えください。
船士魂